国際津波防災学会『TEN vol.3』掲載論稿のご紹介(4)

 畔柳昭雄、増田光一、相田康洋、居駒知樹、戎崎俊一、江頭満正 著
「津波・河川水害に対応したFLOATING CABINの研究開発」
 江頭満正 著
「FLOATING VEHICLEの研究開発」

本記事では、3月25日発売の国際津波防災学会『TEN(Tsunami, Earth and Networking)vol.3』に掲載された、畔柳昭雄先生(日本大学理工学部)をはじめとする先生方による論稿「津波・河川水害に対応したFLOATING CABINの研究開発」、および江頭満正先生(理化学研究所)による「FLOATING VEHICLEの研究開発」をご紹介いたします。

激甚化する風水害

 近年、水害の被害が各地で多発し、その対策に注目が集まっています。特に、「海や河川の沿岸部の低地では、高潮や洪水による冠水、浸水被害の多発する状況が勃発し、発生する災害も激甚化する傾向が見られ」(『TEN vol.3』p.23)ます。

 都市部においても、集中豪雨や線上降雨帯によって「想定外で甚大の被害」が発生していることは、すでに報道などで広く知られている通りです。しかし、水害が身近に迫っているはずの現代にあっては、生活様式の変化や住居の近代化により、かえって地域に根ざした水防の工夫が消滅しつつあります。

「浮かぶ」伝統構法の再発見

 『TEN』掲載の論稿「津波・河川水害に対応したFLOATING CABINの研究開発」では、常に水害の危険にさらされている洪水常襲地帯に立地する水防建築について、分布や特性を分析するとともに、現代の社会的状況に即した新たな水防建築の開発提案が行われます。
 特に、水防建築の伝統的構法であった、最終段階で建物を「浮かせる」方策に注目し、現代のかさ上げなどによる静的な対策に対して、動的な対策としての「浮かぶ」構法を重視しているのが本稿の特徴です。

 日本の洪水常襲地帯である84河川を対象として行われた調査の結果、伝統的な水防建築では、地域における経験則に基づいた、段階的な洪水への対応が行われていたことが明らかとなりました(『TEN vol.3』p.25)。本稿では、その段階を4つに分類するとともに、特に最終段階の「浮かぶ」レベルでの対応に注目します。
 一方、世界的な傾向として、「浮かぶ」構法を採り入れた建築は、洪水常襲地域で広く導入整備されているものです。本稿の分析はこうした世界の動向にも及び、これらを踏まえた新たな水防建築「FLOATING CABIN」の必要性が説かれます。

「浮かぶ」自動車の防災利用

 また、同特集の論稿「FLOATING VEHICLEの研究開発」は、突発的な水害時の対策として研究開発が進む耐水害自動車「FLOATING VEHICLE」の研究報告です。株式会社FOMM製造の水に浮く電気自動車「FOMM ONE」の事例などから、建築に活用されている既存の技術を応用し、緊急時にはバス等の車体を船のように浮上するさせる技術の、具体的な可能性が検討されています。

 現在の日本では、「浮かぶ」構法を重視する考え方は、未だ一般化されない状況にあります。しかし、先人たちが築いてきた災害文化と伝統的構法、そして世界的な動向が示す水防建築の価値を検討したとき、私たちは今こそ新たな防災・減災の手法を検討すべきだといえるのではないでしょうか。
 水害の危機が私たちの身近に迫るいまだからこそ、多くの方に本稿をお読みいただけましたら幸いです。


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