国際津波防災学会『TEN vol.3』掲載論稿のご紹介(2)

 小浪尊宏(国土技術研究センター 研究主幹)著
「令和元年東日本台風による水害被害とその対応」ご紹介 

本記事では、3月25日発売の国際津波防災学会『TEN(Tsunami, Earth and Networking)vol.3』に掲載された、小浪尊宏先生(国土技術研究センター)による論稿「令和元年東日本台風による水害被害とその対応」をご紹介いたします。

人類の繁栄と浸水リスク

近年、台風や豪雨などによって河川が氾濫し、甚大な被害を市街地に及ぼす、河川災害が世界各地で多発して人々を悩ませています。
主に河川の流域で発生するこの災害ですが、それでは市街地を高い場所につくればよいのかといえば、問題はそう単純ではありません。

現実として私たち人類は、「歴史的に、水を使えない台地では人口を維持することができず、東京、大阪、名古屋といったメガロポリスを含む都市の多くが浸水想定区域に立地している」(『TEN vol.3』p.17)状況にあります。
また、長く水運によって栄えてきた地域において、たとえば千年近い営みを無視し、浸水リスクのない土地に市街地を移転させることも、やはり現実的ではありません。

令和元年東日本台風の教訓とは

さて、2019年10月に日本を襲った「令和元年東日本台風」は、東日本各地に記録的な降雨をもたらし、この災害による全国での死者は96名、負傷者は約500名に及んだほか、約10万棟の建物が被害を受けるなど、甚大な影響を日本社会に与えました。

このとき、国土交通省・福島河川国道事務所長であった小浪尊宏先生による、阿武隈川流域で生じた被害とその対応を報告する論稿が、『TEN vol.3』掲載の「令和元年東日本台風による水害被害とその対応」です。

自然災害に「上限」は存在しない

災害から人々の生命や生活を守るためには、インフラの整備や、水害から私たちを守るための構造物、たとえば堤防の整備などが必要なことは間違いありません。

しかし、「自然災害には『上限』は存在せず、構造物のみではすべて守ることはできない」(同 p.13)こともまた、現実です。実際に、東日本台風で被害を受けた阿武隈川流域では、数多の堤防が破堤に至り、市街地へと水が流れ込みました。

だからこそ、防災においては、避難のための施策をはじめとする「ソフト対策」が重要であり、そこで「情報」が果たす役割は大きいものとなります。ところが、「情報」とは、ただ届けるだけでは人々に使われず、どこかで「眠って」(同 p.16)しまうものでもあるのです。

激甚化する風水害に備えるために

論稿「令和元年東日本台風による水害被害とその対応」では、阿武隈川流域で生じた実際の被害状況や避難状況の分析を通して、自然災害発生時における構造物による防御の重要性と、その能力を超えた災害に備えた「ソフト対策」の必要性、その実現のための具体的方策が論じられています。

世界で河川災害の脅威が増すいまだからこそ、多くの読者の皆様にこの論稿をお読みいただけましたら幸いです。

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