地球温暖化予測と海上低層雲による緩衝効果

温室効果ガスは暴走的温暖化に結びつくか

現在、二酸化炭素をはじめとする「温室効果ガス」によって生じる気候変動は、人類が解決すべき大きな課題のひとつとされています(参考:気象庁「展示室1 温室効果ガスに関する基礎知識」

そして同時に、大気中の温室効果ガスの増加に対する重大な懸念として示されてきたのが、下層雲の減少による温暖化の加速効果です(参考:国立環境研究所「地球温暖化予測において雲減少による温暖化の加速効果が過小評価 -対流活動に着目して予測の不確かさを減らす-」

大気の下層にある背の低い雲(下層雲)は、太陽光を反射して地球を冷却しています。しかし、温暖化の進行によって下層雲が減少し、雲による冷却効果が低下することで、温暖化がさらに加速する(雲によるポジティブ・フィードバック)、というのがその見解です。

もしこの理論に基づくならば、温室効果ガスの排出を止められなかった場合、いずれ暴走的な気候変動が発生し、人類の社会秩序に強烈な影響を与えることが予測されるでしょう。

しかし、「戎崎の科学は一つ」の著者・戎崎俊一博士(理化学研究所)は、2023年に執筆した論文「海上低層雲による気候変動緩衝」(戎崎,2023)において、こうした理論的前提に対する大きな疑問を投げかけました。

海上低層雲による温室効果の緩衝

戎崎博士は、温室効果ガスの濃度上昇は海上低層雲の被覆率の増加に結びつき、結果として気候変動が緩衝されていると論じています。

この論文の概要は、「戎崎の科学は一つ」に掲載された以下の記事からご覧ください。

論文「海上低層雲による気候変動緩衝」の要点をごく簡潔にまとめれば、以下のようになります。

  1. 温暖化ガス濃度が上昇すると、地球大気の応答を通じて海上低層雲の被覆率が増加する
  2. 海洋低層雲は、可視光に対するアルベド(反射率)と赤外線領域における放射冷却により、地球の熱収支を冷却側に強く傾ける
  3. この効果で温暖化の大部分は緩衝され、その程度は、本現象を考慮しない場合に比べて約3分の1となる
  4. 二酸化炭素の倍増に対して、地球の平均気温の上昇量はManabe and Wetherland(1975)が主張する2.93K に至らず、0.98K 以下に留まる
  5. よって、二酸化炭素濃度の増加により雲が減り温暖化がさらに進行する「暴走的温暖化」は、地球に海洋が存在する限り心配する必要はない

そして、戎崎博士は同論文において、「海上低層雲の雲アルベド効果の緩衝機構は、地球の熱収支を評価する多くの研究で無視されて」きたことを指摘しています。

その後、2024年になり、ノーベル物理賞(2022年)を受賞した科学者・John Francis Clauser博士が、講演“Climate Change is a Myth”において「雲がサーモスタット(恒温器)の働きをする」と繰り返し主張しました(参考・引用:YouTube「Climate Change is a Myth. John Clauser, PhD」

いま、温室効果ガスに起因する気候変動と、雲の緩衝効果との関係に、改めて大きな注目が集まっているのです。

戎崎博士は「戎崎の科学は一つ」において、クラウザー博士による主張は「微分の連鎖率を使って海面温度の変化にしたがって雲の被覆率がどう変わるかを計算する必要があると述べるにとどまってい」ることに触れています。

この点においても、戎崎博士が精力的に検討を重ねてきた「海上低層雲による気候変動緩衝」というテーマと具体的な分析結果は、ますます大きな意味を持ってくることでしょう。

1) 戎崎俊一: 海上低層雲による気候変動緩衝, TEN (Tsunami, Earth, and Networking), vol.4, 52-67, 2023.
2)Manabe, S. and Weatheraid: The effects of doubling CO2 concentration on the climate of a general circulation model, Journal of the Atmospheric Sciences, vol.32, 3-15, 1975.

公開中の論文・記事のご紹介

「海上低層雲による気候変動緩衝」については、以下の論文・記事が「科学は一つ」において無料公開されています。ぜひご一読ください。

Climate Buffering of Marine Low Clouds(論文「海上低層雲による気候変動緩衝」英訳版)

海上低層雲の気候緩衝機構 Climate Buffering Mechanism of Marine Low-Level Clouds

海上低層雲による気候変動緩衝

また、本記事中でご紹介した論文「海上低層雲による気候変動緩衝」は、科学誌『TEN(Tsunami, Earth and Networking)vol.4』に収録されています。こちらはAmazon.co.jpほか主要ネット書店にて、紙・電子版ともお求めいただけます。

笠原 正大

学而図書 代表

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