はんのうリトルプレス『空き家再生のリアル』刊行によせて

埼玉県飯能市で活躍するアーティストの作品を刊行する、小さな出版企画「はんのうリトルプレス」。このシリーズに、新作『空き家再生のリアル』(金井滋 著)が加わりました。

著者・金井滋氏は、行政書士として埼玉県を中心に活動し、数多くの空き家をリノベーションしながら地域の新たな資産を生み出してきた方です。本書には、「空き家問題」の社会的背景の解説から、著者が身をもって学び取ってきたトラブル回避の勘どころまで、空き家再生の理論と実践が濃密に詰まっています。

金井氏は民間の一事業者として、限られた時間と予算の中、誰からも見放された空き家を購入し、DIY中心の工事で作り変えてきました。

多くの地域が空き家問題を抱え、住民も行政も、行き場のない物件を持て余しつつあるのが現在の日本です。その中で、法律の専門家として「空き家再生」の全てのプロセスに挑み、問題解決のために体一つでぶつかっていく著者の姿勢には頭が下がります。

そして、空き家に手をつければ否応なく起きてくる問題や想定外の事態は、読むだけで頭が痛くなるようなことばかりです。購入後に判明する屋根の劣化、オーバーする予算、果てしなく続く手作業、遥か過去の居住者との関係構築、夜の住宅街に響きわたる破裂音……。

長期間にわたって見捨てられてきた物件には、ありとあらゆるトラブルの種が埋まっています。空き家の再生は、決して綺麗事だけでは成し遂げられないのです。

これから日本中で、さらに多くの地域が直面するであろう「空き家問題」。誰もが目を背けるような空き家と向き合い、そこに新たな役割を生み出してきた金井氏の知識と経験は、空き家に悩むあらゆる人々にとって有用な指針となるのではないでしょうか。

『空き家再生のリアル』は、本の森はんのうブックセンターや、同センターの販売作品を取り扱う公式ストア「KIS Japan Market」で近日中に販売開始予定です。

笠原 正大

学而図書 代表

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