国際津波防災学会『TEN vol.3』掲載論稿のご紹介(3)

 田家康(日本気象予報士会東京支部長)著
「巨大火山噴火の社会への影響:過去の事例から」ご紹介 

本記事では、3月25日発売の国際津波防災学会『TEN(Tsunami, Earth and Networking)vol.3』に掲載された、田家康先生(日本気象予報士会)による論稿「巨大火山噴火の社会への影響:過去の事例から」をご紹介いたします。

「火山の冬」と人類史

いま世界で気候変動への対処が大きな課題とされる中、2022年1月15日に発生したフンガトンガ・フンガハアパイ火山の巨大噴火は、多くの人々にひとつの危惧を抱かせました。それは、今回の火山噴火に伴う二酸化硫黄の排出によって、それがもたらす全地球規模の寒冷化現象、いわゆる「火山の冬」が発生するのではないか、という懸念です。

巨大噴火がもたらす「火山の冬」は、過去の人類の歴史において、世界各地に大きな社会的混乱を招いてきました。『TEN vol.3』掲載の、田家康先生による論稿「巨大火山噴火の社会への影響:過去の事例から」は、過去2000年間の主要な巨大噴火が及ぼした気温変動と、その社会的影響を分析しようと試みるものです。

人類の歴史を動かす、巨大噴火と気候変動

一例として、536年にエルサルバドルのイロバン湖(候補地には諸説有)で発生した巨大火山噴火は、「古代後期の小氷期」と表現される気温低下を全球的に引き起こしました。このときの様子を、東ローマ帝国のプロコピウスは「536~537年の1年間、太陽ははっきりと見えず……それ以来、誰もが戦争、疫病により死んでいった」と記しています。結果、地中海地域では農作物に壊滅的な被害が生じるとともに、ペストの大流行によって東ローマ帝国の死者は2500~5000万人にも及んだと推定され、同帝国の衰退を決定的なものとしました(『TEN vol.3』p.47)。

ひとたび「火山の冬」が生じれば、それは全球規模で気候に影響し、人類社会にも大きな変動を呼び起こします。フンガトンガ・フンガハアパイ火山の噴火の様子は、地球規模で気候に影響を与えうる巨大火山の存在を、否応なく私たちに思い起こさせました。いま、改めて過去の巨大噴火と人類の歴史の相関を知ることが、私たちには必要なのではないでしょうか。

これまで『気候文明史 世界を変えた8万年の攻防』 や『気候で読み解く日本の歴史―異常気象との攻防1400年』 (いずれも日本経済新聞出版)など多数のご著書を通して、過去の気候変動と人類史の関連を描いてこられた田家康先生による最新論稿を、ぜひご一読ください。

関連記事