『科学はひとつ』書評のご紹介

このたび、真貝寿明先生(大阪工業大学情報科学部 教授) のFacebookにおいて、『科学はひとつ 宇宙物理学者による知的挑戦の記録』(戎崎俊一 著) の書評をご掲載いただきました。

当ホームページご来訪の皆様にもご覧いただけるよう、真貝先生のご承諾を得て、以下に書評文を掲載いたします。
引用元:Facebook(真貝寿明先生)該当記事

理化学研究所時代の親分だった戎崎さんから近著『科学はひとつ 宇宙物理学者による知的挑戦の記録』(学而図書)をご恵贈いただいた.直ちに御礼を申し上げることができなかったので,この場で本書をご紹介したい.

前書きによれば,本書は,2011年の東日本震災直後に発生した原子力発電所の事故に対して,科学者たちが「誰一人として,憂慮すべき状況を直視した発言を行わなかった」ことに危惧を抱き,戎崎氏が「すべての科学分野を自分の研究テーマとし,人類的な課題に挑戦していく決意」をしたことの結果報告である.戎崎氏は,細分化され蛸壺化した研究者の在り方に一石を投じるべく,ご自身の専門としていた天体物理学のカテゴリーを超えて,化学・地球科学・プラズマ物理学・生物学・惑星科学に研究分野を広げ,科学的な思考で独自な発信を続けている.もともとご本人のブログ記事「戎崎の科学はひとつ Ebisu’s United Fields of Science」を中心に書き溜められたものを再構成したのが本書だが,改めて通して眺めると,それぞれの研究の着想や連携,展開がわかり,実に興味深い.ご自身は本書を「研究ノート」と称されているが,70近くのコラムがご自身の論文数本の要約であるので,決して軽く読み進められるものではない.

なにより,研究分野の広がっていくさまが脅威である.専門の文献を読み進め,その分野のトップにメンターを求め,「知的冒険」と呼びながら,データ収集やシミュレーションを駆使して,数々の提言を行なっていく.それらは例えば,国際津波防災学会の設立であったり,レーザー照射による宇宙デブリ除去の提案というような現実的なものもあれば,放射線の取り込みによる生命の起源仮説,極端な地球の気候変動が銀河系内の宇宙線量に支配されている説,惑星形成を磁気回転不安定性で説明するタンデム惑星形成理論,などなど諸業界に新風をもたらす「作業仮説」として発表されていく.そして,これらは今のところ「致命的な棄却要因が見られない」ものとなっている.

本書には科学論や書評も取り上げられている.私は,以前教えていただいた「名前がYで終わる探索と発見の学問,名前がSで終わる整理と体系化の学問」の話をよく一般講演でも取り上げる(戎崎氏は小平圭一氏に教わったそうだ).astronomyからphysicsへ,biologyからgeneticsへ,という学問の興亡の話には,誰しも合点がいくことだろう.このような視野の広がりが,本書の随所に隠されている.

私は戎崎氏と知り合って20年以上となるが,彼の常にパワフルな姿勢に脱帽する.個人的な会話で,「定年まであと10年と知ったとき,すべての時間を研究に捧げようと思った」,「とりあえず論文にしておけば,何十年後かに当たる可能性がある」など,私の人生の糧となる言葉をぽんぽんと投げてくれた親分である.戎崎氏の研究すべてを理解することは,浅学の我が身には到底無理なことではあるが,現役の一科学者の孤軍奮闘の軌跡を追体験できる本書はなかなか貴重である.座右の書としたい.

真貝寿明先生のFacebook(2023年9月9日)より引用
 

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